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2009-04

一寸の虫にも五分の魂

 当院が開院してから、約一か月半が立ちました。学会の生殖補助医療施設認定も申請中ですが、胚の取り違え事件のせいか、認可基準が過去より厳しくなり、再審査となってしまい、おそらく5月20日過ぎに認可される見通しです。実質2か月に一回の審査間隔になるため、予定より二か月遅れとなってしまいました。この間、不妊患者さんが徐々に増え、早く体外受精などの治療を行いたいのですが、もう少し辛抱しなければならない状況です。現在500~600くらい認定施設があり、実質稼動していない施設も多いようですが、一方では、採卵数が年間1000を超える先行メガクリニックが市場の大部分を占めている状態です。体外受精は、もともと大学病院で行われていた治療ですが、その先生たちがプライベートクリニックで産科と併用しながら、あるいは専門クリニックとして10年くらいの間に急速に大きくなり、今日に至っています。体外受精はある程度組織的な力が必要となりますので、先行クリニックは圧倒的に有利です。最初、成績が悪かったであろう頃に試行錯誤が許容され、人とモノとカネがそろった今、後発施設の進出を、色々な手段で阻む格好になっています。後発施設は、かつては同じグループの後輩であった医師やプライベートクリニックの勤務医師であった人たちです。日々進む技術をチェックし、高額な機器や培養液を購入し、チームで不妊症治療にあたる、というのは実はなかなか大変なことであります。当院のような弱小クリニックが生き残るには、知恵を絞り自分の時間をぎりぎりまで費やして、相当の努力が要求されます。

 かつて私もメガプライベートクリニックにおりましたが、ISO9001のマニュアルに沿うと、医師を含めて歯車でした。担当医制ではなかったので、自分の役割は工場の一部門に座り、同じような患者さんに同じような治療の一部分の繰り返しでした。ARTは神聖視され、施設長とトップ培養士しか手が出せませんでした。医師の仕事でいえば採卵の半部とか、あるいは1個の卵しか新人培養士(それも3年くらいいて)にはおちてきませんが、リカバリーが効く部分しか任せられないのは、ある意味当然ですから、メガプライベートクリニックとしては、それしかできないのでしょう。当番医制(曜日によって担当医師が違う)の施設というのは、経営者が思い切った人であるのだと思います。しかし、勤務医師にとっては、一人の患者を診た、という感覚が湧いてきません。そこで、新規開業を考えるのですが、組織力を揃えるのに資金がかかり、かつ広告に金が取られます。そして、パイの奪い合いでは、なかなかメガプライベートクリニック相手に戦うことは困難なのです。そのプライベートクリニックの敵は、産科医院のART部門進出です。なぜならば、産科医院には、分娩で集積した資本があります。金で機械と技術者を揃えれば、プライベートクリニックにとっては脅威になります。産科医院は、病棟を持っており、日曜日診察や夜間の注射も苦もなくできる。妊娠してからのフォローも容易。そこで、メガプライベートクリニックは、品質と技術の差を打ち出すのですが、それにも莫大な広告費がかかります。物量戦争の中、新規のプライベートクリニックは、かなり経営がきつい状況になっているのです。しかし、道はあると思っています。

 メガプライベートクリニックの弱点は、個々の勤務医師に任せざるを得ないため一般治療の治療成績が悪いこと、、卵管鏡や腹腔鏡手術などの代替手段(手間がかかり利益率が低い)を示さず、すぐARTに持ち込みたがること(大組織になってしまうと、それを支えるだけの採卵数が必要になるため)、待ち時間がものすごく長いこと、料金が高いこと(大人数の組織を養うためと、莫大な広告費(雑誌・テレビに協賛)などで、経費がかかるため)ではないか、と思います。これらを意識して、スリムな組織で、頭と自分の時間を使って真心こめた治療をしていけば、弱小プライベートクリニックでも経営が成立すると思うのです。金持ちにはなれないと思いますが。

 誤解を恐れずに言えば、不妊治療クリニックというのは料理店みたいなところがあります。料理店は、厨房にちゃんとした道具と、選別された食材があれば、あとは一人の優れた料理人の腕で美味しい料理がつくれます。これは、誰にも納得できることだと思います。美味しい料理を食べた人はリピーターとなり、また広告せずとも自然に口コミで増え、いつのまにか名店になります。それと、同じようなことが、不妊治療クリニックでも言えるのではないでしょうか。体外受精のラボは、数千万円かければ、ちゃんとした道具は揃います。開業資金数千万円は、出せない額ではありません。特に既存産科施設からみれば、わけない投資額でしょう。選別された食材とは、おそれおおくも患者さんの質です。これは、選んでくるわけにはいきませんが、いい状態で配偶子を採るのは、医師の仕事です。ここにも目利きのようなすぐれたセンスが必要になります。そして、料理人の腕。現在は、すでに培養士の領域になっているのですが、ここでの材料の取扱が決定的な決め手になります。完成した料理をフロアでもてなすのは、また医師や看護師の仕事です。こう見てくると、一人の医師が切り盛りしているクリニックでも、その医師や培養士の資質次第で一流の味は出せるのではないか、と思えます。そのために大事なことは、最初の料理を美味しくできて、初めにきていただいたお客様を満足させられるか、ということです。

 体外受精とか顕微授精というものは、基本的には職人の技だと思うのです。小さなクリニックでも頑張れば、一流の味が出せる筈なのです。メガクリニックの施設長というのは、どこも練達の達人だと思いますが、小さなクリニックの長でも、達人はいるのでは、と思います。器械は高いといっても数千万円の投資で、一式揃います。弱小クリニックが生き残るには、医師の正確な見極め、練達の採卵・胚移植技術、そしてなにより、培養士のセンスと技術だと思っています。技術を高めるために、私たちのクリニックでは、動物実験や精子の実験、一人一人の患者さんごとの予備試験というものを重視しています。そして、予備試験のデータを基に本番に備えます。非常に時間がかかるし、経費もかかるのですが、とにかく妊娠させるんだという「つくり屋」の心意気、誇り、プライドというものがそれを後押ししています。

 さて、四日市におけるチームこうのとりは、まだ立ち上げたばかりなので、発表する時期ではありません。しかしながら、新規弱小クリニックに通う患者さんにとっての参考資料となるように、同じメンバーのチームが過去1年間に行った成績を敢えて載せてみました。今と同じく弱小新規クリニックでしたので症例数も少なく、かつ1年しか経っていないので、出産までこぎつけていない方もかなり入っていますので、出産率や流産率が入っていないなど統計としては全く不十分なのはご理解ください。あとは、実際に当院に立ち寄っていただき、その味をご自身で確かめていただくしかないように思います。

年齢 患者数 採卵数

延べ妊

娠数

初回採卵

採卵あたり

妊娠率

凍結融解周

期での妊娠数

1年後の

妊娠率

25-29

3

5

3

2

60%

1

100%

30-33

6

9

4

3

44%

0

66.7%

34-37

9

14

6

5

42.9%

1

66.7%

38-39

5

12

3

2

25%

1

60%

40-42

4

14

1

0

7.1%

0

25%

 

27

58

17

12

 

3

 

 

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