⑥ 体外受精・顕微授精

ART実施前の検査

検体(卵・精子)は、感染症に対する厳重な管理をいたします。  また、採卵は、手術に相当いたしますので、安全性を考慮して術前の検査をいたします。 妊娠率を上げるため、予め習慣性流産その他の不育症の検査をし、異常値があれば、対策をたてた上で、胚移植にのぞみます。

卵巣前周期には、月経1日目から3日目にE2(エストロゲン)、LH、FSHの測定と、卵巣内の小卵胞の数を行っています。
このデータと今までの経過から、卵巣刺激の形態(自然・クロミフェン・ゴナドトロピン注射)と、排卵抑制の種類(ナサニー点鼻薬かアンタゴニスト)を決定します。

(女性)採卵前検査
①感染症:梅毒・B型・C型肝炎・エイズの検査 (※検査データがあれば省略できます。)
②凝固検査:貧血や血液凝固異常がないかチェックします
③自己抗体検査:抗リン脂質抗体症候群・自己免疫疾患だと不育症になる可能性があります。
以下の3項目をスクリーニングします。
抗カルジオリピン抗体精密測定(IgG) ・抗カルジオリピンIgM型抗体 ・
抗カルジオリピンβ2グリコプロテイン(抗CLβ2GPI) ・複合体抗体 ・
抗DNA抗体精密測定 ・抗核抗体精密測定
④クラミジア検査:癒着がないかのチェックですが、出産にあたっても重要となります。
 クラミジアトラコマチス抗体価精密測定IgG、IgA
⑤自己免疫検査:顕微授精にするかどうかの指標のひとつです。
抗精子抗体
(男性) 採精前の検査(通常採精の場合)
①感染症:(女性と同一項目)
②精液検査
精液量、精液濃度、運動率、高速運動率、正常形態、白血球数、凝集の有無、液化
クルガーテスト (精子奇形率を、染色液を用いて詳しく調べる検査、受精能に対する有益な指標となり、顕微授精をするかどうかの指標となります) 

前周期(排卵抑制周期)中の検査

① Day3日目より、ピル(プラノバール)を、7~28日間内服
② (Day8付近)子宮膣部と膣の細菌培養
③ 実際に胚移植時に使用するカテーテルを用いて、子宮の長さ、カテーテルを進める方向、カテーテルの種類を決めておきます。この時に胚移植のカテーテルの挿入が困難な方には、この周期の間に頚管拡張・子宮鏡検査を行います。
④ long GnRHa法の場合、黄体中期よりナサニール点鼻薬を開始します。

採卵周期の卵胞刺激

自然周期:
卵胞径18mmを超えて、LHサージがかかった時か、フレアアップをかけた時期から採卵日を決定します。日曜日が採卵日となることもあります。頻繁なチェックが必要になります。
コントロール周期:
月経開始後3~6日目頃から、直前のホルモン検査の結果や卵巣内の小卵胞の数によって、hMGの注射の種類と量を決めて、hMGの注射を毎日開始します。
hMG注射開始後4日目から、卵胞計測を隔日あるいは毎日行います。
hMGの注射を7~9日間行って、2番目に大きい卵胞径が18mmになったら、スプレキュアとhMGの使用をやめて、hCGを10,000単位、注射します。アンタゴニスト法では、卵胞径14mmになったら、連日3~4日、アンタゴニストを注射します。

採卵

HCG投与後、約34~36時間後に採卵を行います。
採卵は膣内を暖かい生理食塩水でよく洗浄した後、麻酔をかけて経膣超音波をしながら膣から針を刺して卵巣内の卵胞から卵を採取します。採卵のシステムは、当院はポンプによる吸引で卵胞内洗浄をしません。概ね採卵率は良好で、卵が傷みにくいため、良好な胚になる可能性が高くなります。

ラボ・ワーク

①自然媒精
卵は、洗浄後、37度の培養器の中で4~6時間ほど前培養しておきます。
一方、採精室で採取した精液は十分に液化した後、精子懸濁液を作成してスイムアップと呼ばれる方法で運動性の良好な質のいい精子のみを集めます。
次に集めた精子を卵の入っている小ディッシュに入れて受精をさせます。
翌日、卵丘細胞をはがして、受精しているかどうかを判定します。卵子は個別培養を続けます。
自然培精の利点は、精子の選別が自然になされていること、卵の成熟が最適なときに受精が行われる点です。
全ての卵を自然培精する例は少なく顕微授精と半々に行うことが多いのですが、自然培精のみがうまくいくことがあります。これは、顕微授精をした時期に卵の成熟が不充分であったときにみられる現象です。

培養室

 

②顕微授精
顕微授精には、透明体部分切開法(PZD)、囲卵腔内精子注入法(SUZI)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)がありますが、通常、顕微授精といえば、ICSIを指します。
ICSIは、卵細胞の中に直接針を使って、精子を一匹注入する方法です。ICSIでは、高度の乏精子症や精子無力症の症例、また精巣内にごくわずかしか精子がいない症例でも妊娠・分娩が可能になりました。原理的にいうと、採卵数の分だけ精子数があれば、事足りることになります。自然培精がうまくできなくても、顕微授精が成功している例の方が多くみられます。
卵を採取した後、ヒアルロニダーゼという酵素で、卵のまわりの卵丘細胞を取り除き卵を裸にします。
次に、精子を精子の動きを少なくする粘張性のある液(PVP)の中に混ぜて、その中でインジェクションニードルで精子の動きを止めた後、インジェクションニードルの中に精子を吸引して入れます。PVPを使わずに精子を捕らえ、使用することもあります。
ホールディングピペットで卵を固定して、インジェクションニードルを卵に刺入し、精子を一匹注入します。翌日、受精兆候がみられれば成功です。
2日間培養すると、受精卵は分割して8分割ぐらいの胚になります。ここで胚の質を評価します。

顕微受精装置

③ 胚凍結・胚融解
HMG周期では、一回の採卵では通常3個以上の卵子が取れ、全てに受精操作を行います。したがって、胚も3個以上になることも多くなります。 1回の胚移植で戻す胚の数は、最大限2個までですので、残りの胚は、基本的に凍結しておきます。また卵巣過剰刺激症候群の発生が予測される時、着床障害が予想される時にも、胚をその周期に戻さずに胚凍結を行います。 胚凍結は、数年後に解凍しても高率の確率でリバースします。そのまま胚を凍結すると細胞が破壊されてしまうため、凍結保存剤の中に胚を入れて凍結を行います。基本的には胚を5日目まで培養し、良好な胚盤胞になった培養5日目、6日目に凍結を行います。
当院では、培養5日目と6日目の胚盤胞はガラス化法(Vitrification法)という急速凍結法で凍結を実施します。
濃い濃度の凍結保存剤の中に胚盤胞を入れて、クライオループの上に胚盤胞を乗せます。それを液体窒素(-196℃)に直接浸けて凍結します。プログラム凍結法より胚の損傷率が少ないといわれています。 胚融解ですが、37℃の凍結保護剤の入った培養液の中に胚盤胞の乗ったクライオトップを直接浸けて、急速に融解し、徐々に凍結保存剤を薄めていきます。凍結した胚には、レーザーアシストハッチングを施しています。


④ 胚盤胞培養
採卵後5~6日目まで胚を着床直前の胚盤胞まで培養してから子宮腔内に移植する方法です。
生理的な状態では、卵管内で胚盤胞にまで成熟し、その状態で子宮内膜に接着します。
つまり、胚盤胞では、より生理的に近い状態の胚を戻すことができ、着床率が上がります。着床率が上がることで、移植する胚の数を2個までに減らすことができ、多胎妊娠の予防にもつながります。
 後期培養に、前期培養と組成の違う培養液が市販され、普及しておりますので、どこの施設でも行われるようになっています。しかし、胚盤胞にならずに成長を停止する胚もあり、このような胚は、どの道、生着が低いだろうと類推されていますが、培養環境が卵管内に劣っている可能性もあり、全てが胚盤胞がベストといえないこともあるとされております。5日目まで粘ると、分裂しなくなってしまった胚が、3日目で戻しておけば、妊娠した可能性が否定できないのです。3日目の胚の評価で、患者様に胚を提示し、ご相談の上、5日まで培養を続けるかどうかを決定します。

胚移植

良好な胚を1~2個を移植チューブ内にできるだけ少ない培養液とともに吸い、子宮腔内にそっと戻します。胚を子宮に戻すことをET(Embryo transfer)と呼びます。
膀胱充満のもと腹超音波で移植チューブを確認しますが、経膣超音波で確認することもあります。
子宮内膜を傷つけると妊娠率が下がります。内子宮口を無事に超えることが第一関門で、エコーでチューブの先端が確実に追えていることが第二関門です。ARTのうち、もっとも大切な場面で、医師の職人芸が必要になります。

黄体補充

体外受精後は黄体機能を維持するために黄体ホルモンであるプロゲステロンを筋肉注射します。エストロゲンの値も、排卵後は低下していることがあり、排卵後1週間後から、エストロゲン補充するケースがあります。
採卵後16日後に妊娠判定を行います。