⑦体外受精・顕微授精のポイント

 

 体外受精の成功のポイントは、各工程を正確に行うことだと考えています。どの工程も大切なのですが、ある程度の水準に達してしまうと、結局は、素材の問題だと考えています。つまり、良い卵子と良い精子から、良い胚ができ、妊娠する、というシンプルなものです。

 

 

当院の基本姿勢として心がけていることは、なるべく選別の機会を入れる、ということです。精子も人為的に選んだ精子より、自然淘汰で生き残った精子がよいでしょう、ということで、体外受精に耐える精子を獲得することに専一に考えています。精子が少なかったり運動率が悪かったりした時には、その場で、もう一度採精することもお願いしております。swim up(遠心させて沈殿させた精子を自力で浮かびあがらせて集める)を通常の倍以上(60分)にしたりして、運動精子獲得率を高め、なるべく顕微授精に頼らないことで、胚盤胞到達率を高めようと努力しています。

 

 卵子には、未熟卵、成熟卵といった概念があります。成熟卵というのは、受精に適しており、扱いが容易になります。採卵した際に、未熟卵であると、培養室で成熟するのを待たなければなりません。これがいつ成熟卵になるのかを判定するのは、卵子を取り巻く顆粒膜細胞をつけたままでは、なかなか難しいことです。顕微授精前提ならば、顆粒膜細胞をはがして、極体を観察できます。ただし、この操作をすると一般的には体外受精が難しくなってしまうため、顕微授精に限られることになります。そこで、顕微授精の安定した技術が必要になります。

 顕微授精は、良い精子を選ぶこと、精子の尾を正確に折ること、スムースに精子を注入することが必要となります。当院では、良い精子を選ぶためIMSIの器械を所有していますが、まだ症例を集積していないため、この成果の違いはまだわかりません。精子の尾を転がすようにして折ることは基本です。 

その他、ピエゾという器械で折る(というよりインパクトを加える)ことも可能です。スムースに精子を入れることもピエゾで可能ですが、普通の針で入れることも好んでやっています。顕微授精は、トレーニングの賜物であるため、精子を50匹折ったりということを日常的に繰り返しています。成熟卵であれば、ほぼ100%の受精率を維持しております。

もちろん、無精子症の患者様のようなケースでは、顕微授精が主体となるため、上述のような最大限の努力をして良い精子をきれいに卵子内に入れることを心がけます。

症例を重ねていくと、結局は若い人の卵子が良い胚になりやすく、年齢の高い人の卵子が残念ながら良い胚になることは少ないことに気が付きます。それでも、なんとか年齢の高い人に対して刺激方法や排卵抑制方法を変えたりして、良い卵ができるよう努力しております。そうすることによって、一回目の採卵でできた胚より、1年置いて二回目の採卵でできた胚の方が、綺麗であることも経験しております。

体外受精は、目で結果を終えるわかりやすい世界です。

 

 

当院では、胚培養にあたって2種類の培養液を用い、分割のよい培養液を選んでいます。値段が高くても、当然分割のよい培養液を用いるようになります。インキュベーターは、小引き出し式の超小型のものを使っています。蓋の開閉時にもガスの復旧速度が速いために値段が高いですが採用しています。培養液を覆うミネラルオイルの質にも気を使い、胚盤胞到達率を高めようと努力しています。5日目に、拡大した胚盤胞を見るのは、培養室の醍醐味です。

きれいに育った胚盤胞を戻して妊娠しないのでは、患者様にも培養士に申し訳がありません。きれいに胚移植をして、きちんと黄体管理を行う。胚移植を確実に行うために、いくつかの工夫をしております(このあたりが秘伝)。流産してしまうこともありますが、結構な確率で妊娠反応がでています。良い胚が手に入れば、ですが