③一般不妊症検査

当院の基本的な不妊治療に対する考え方

前項で述べたように、妊娠のステップは、①~⑩まであるのですが、検査としては、①~④と⑩しか通常はできません。⑤~⑨は卵管・子宮の中で行われるミクロの世界であり、現代の医療技術では、お腹の臓器の中に200倍もの顕微鏡を持ち込めないためです。①②は、1-2年は不変と考えて、③④は、毎週期毎に条件が変わりうると思われます。よって、毎週期、卵胞の動きと精子の入り具合を確認し、①~④まで妊娠し得ると考えられた場合、チャンス一回、と判断します。統計的考察により、チャンス6回まであっても妊娠しない場合、⑤~⑨のステップのどこかに支障があるのではないか、と考えらえ、それに応じる検査は、一般不妊外来では行い難いため、精子不動化試験子宮鏡を行い、その結果を考慮して、体外受精に移行するようお勧めしております。体外受精では、卵を外に出して、顕微鏡のもとで動きを観察していくため、どこのステップでつっかえているか類推することができます。早く妊娠することが、患者様のストレスを軽減させ、二人目も誕生させることができる正しい考え方だと信じております。
ただし、治療のステップアップに関する最終的な決定権は患者様側にあるため、そのご意向に沿った治療を継続しております。

生理以外の時期では、子宮頚部の癌検査およびクラミジアの検査を行います。
次に、基本中の基本、経膣プローブによる超音波検査をします。
子宮の大きさ、子宮筋腫、子宮腺筋症の有無、子宮内膜の厚さ、子宮体部ポリープや子宮の奇形がないかどうかを調べ、また、子宮と卵巣の間の癒着を調べます。子宮内膜症、卵管水腫がある時も超音波で診断が可能です。
排卵前後には、卵巣内の主席卵胞(最も大きい卵胞)の大きさや子宮内膜の厚さを測ります。
(※当院では、独自の価格体系を持っております)。

なるべく、基礎体温をつけていただきます

起床時、布団の中で、口の中に婦人体温計を入れて基礎体温を測っていただきます。
基礎体温の低温相(すなわち排卵までの期間)は個人差がかなり大きく、一方、高温相が14日間内外とそれほど差がありません。
低温相と高温相の2相性かどうかにより排卵していそうかまた排卵日はいつ頃だったのかがわかります。
最終低温日から高温相の2日目までの間に排卵が起こっているようです。
低温相と高温相の温度差が0.3℃未満、高温相の日数が9日以内、高温相の途中で体温が一時低下する時は、黄体機能不全ありとされていますが、実際に目にすることが多いのは、ぎざぎざな基礎体温表で、この場合、きちんとした卵胞成熟や排卵がないと考えて、排卵誘発剤を使います。
こうのとりWOMEN'S CAREクリニック
では、排卵期を知る検査に力を入れます。
頸管粘液検査、卵胞の大きさ、子宮内膜の形状、尿中LHチェックより正確な排卵日を予測します。自然周期と刺激周期では、卵胞の多きさや伸び方が違います。排卵にいたるまでの期間は、人さまざまです。色々な要素を考慮しながら、なるべく少ない来院回数で排卵日を予測していきます。
これは、大事な作業です。
ちなみに、排卵後のエコーは、排卵日に自信があれば省略も可能ですが、なるべく行うようにしております。

性交後試験 Post Coital Test、通称、フーナーテスト Huhner Testを結構します。

性交後試験というのは、自然妊娠を狙う場合、重要な検査と考えています。
というより、これしか根拠らしき方法がない、といった方が正しい表現でしょう。
頚管入り口の精子のーらかの要因(たとえばクロミッド)が入り込んでいます。
顕微鏡にかけるまでもなく採取した段階で判定できます。頚管粘液が良好な場合、透明です。
この透明な液が取れると、期待を込めて顕微鏡を覗きます。 大抵、精子が元気に泳いでいます。
精子が少なければ、乏精子症である場合が多いです。
この場合、精液検査をします。
性交後、12時間以内まではOKというのが定義らしいですが、私の経験では24時間たっても、ベストタイミングであれば、結構元気に泳いでいます。

方法】
シリンジで頚管粘液を吸引し、膣分泌物を顕微鏡で観察し、膣内に精子が射精されているか確認します。
大抵、200倍で頚管粘液を鏡検し、1視野中の全精子数と運動精子数をカウントします。
およそ平均的な5視野を見ます。
正常値ですが、400倍視野中の運動精子数 は5個以上です。しかし、5匹なんてけちなことは言っていないで、何十匹泳いでいる場合に、妊娠する場合が多いです。
 フーナーテスト不良の場合、どうするか?抗精子抗体?精子不動化試験?いえいえ、違います。頚管粘液を良くするよう、努力し、それでもダメならAIHを勧めます。結果が全てです。

子宮卵管造影検査

子宮卵管造影は卵管の通過性、卵管の癒着、子宮腔の状態を調べる検査です。
通常、月経終了後から9日目までに実施します。10日目以降は子宮内膜が肥厚し、子宮(卵管)内に管腔液が溜まり、子宮腔内像および卵管通過性に関して正確な情報が得られないため、検査に適しません。
平成21年度現在、イソビストという保険適応の効く水溶性造影剤がなくなってしまい、保険診療は油性の造影剤しかありません。油性は長期間体内に残留することが知られており、造影剤に含まれるヨードが、妊娠後の胎児に影響した例が報告されております。そこで当院は、レボビストというガラクトースよりできた造影剤を用い、超音波下に、卵管を評価しています。卵管疎通性と、卵管膨大部の異常は評価できます。きわめて細いチューブを用い、子宮単鉗子で子宮を牽引せずに行いますので、痛みがほとんどありません。ただし、卵管が狭窄もしくは閉鎖している場合、子宮内に造影剤が充満し生理痛のような痛みがおこることがあります。時間は全行程10分ほどで済みます。
そこで通過障害がみられたならば、子宮鏡による再検査を行い、同時に卵管通水を施行しています。

基礎ホルモン検査も最初はきっちりやります。
月経の始まった日を1日目として、3日目から5日目までの間に血清のFSH※1、LH※2、プロラクチン※3、甲状腺刺激ホルモン※4、場合によりエストロゲン※5を測定します。
排卵の時期には尿中LHを、高温相(黄体期)の中期に、黄体機能を評価するために血清のプロゲステロン6※とエストロゲンを測定します。
基礎ホルモンは、最初の周期だけです。黄体期のホルモン検査は、保険が通るため、毎週期する施設がありますが、せいぜい数回で十分なような気がしております。
自分自身、採血されるのは好きでないので、1~2回しかしておりません。ちなみに排卵誘発剤を使うと、黄体機能はあっさり改善されます。

 

※1
下垂体から分泌されるホルモンで、卵巣に作用して卵の入っている卵胞を発育させます。
また、LHとともにエストロゲンの合成を助けます。
血清FSH値から、卵巣がどのくらいの排卵能力を持っているかが、わかります。血清FSHの値が非常に高いということは、卵巣の機能が非常に悪いことを意味しています。
※2

LHには成熟した卵を排卵させ、黄体を形成させる作用があります。
排卵約34-42時間前にピーク状に分泌する(LHサージ)ため、排卵の時期を推定するために尿中LHを簡易測定キット(約2分で結果がでる)を用いて検出します
※3
下垂体から分泌されるホルモンで、乳汁分泌ホルモンという名前の通り、分娩後の褥婦さんに大量に分泌されているホルモンです。
このホルモンは、男女ともに正常でも少量分泌されていますが、値が高くなると男女ともに不妊症の原因になります。女性では、プロラクチンの値が高くなるのにしたがって、黄体機能不全、無排卵、無月経になります。
※4
甲状腺をつかさどっているホルモンで、、卵胞の中にある顆粒膜細胞に作用して、下垂体から分泌されているFSH(卵胞刺激ホルモン)の働きを増強し、かつ黄体化に関連しているために、甲状腺ホルモンが減少すると無排卵になります。
※5
エストロゲンは、卵巣の顆粒膜細胞というところから分泌され、卵胞期(低温期)の子宮内膜を厚くし、排卵前に子宮頚管粘液量を増加させる作用があります。
※6
プロゲステロンは、排卵した後に形成される黄体から分泌するホルモンで、子宮内膜に作用して内膜の正常を変化させて胚(受精卵)が着床しやすい環境にしたり、子宮の筋肉の緊張を低下させます。つまり、黄体期の中期のプロゲステロン値より黄体機能を評価することができます。プロゲステロンは、10.0ng/ml以上を、黄体期中期として正常とされます。排卵前に、このホルモンがでてしまうと早期黄体化といって、その周期は妊娠できません。